横山健堂『高杉晋作』
大正五年

高杉は極めて徹底した人物である。
……徹底的なる高杉の一生には、
しばしば大疑問が起こり、それが解決されつつ、前へ前へと躍進した。
彼が大徹底の路上には大煩悶が横たわるべきである。
彼が煩悶した問題は、
一に開国攘夷、二に忠孝両全、三には死生の煩悶である。
……彼は徹底したる攘夷、徹底したる開国を求めた。
彼の攘夷も開国も甚だ明晰である。透徹している

吾輩は、彼を伝するによって、殊に愉快を感ずる所以の理由が三つある。
 (一)彼が天下第一人であること。
 (二)彼が、わが民族性の本領を発揮したる大人物たること。・・・・・・
 (三)彼は青年の好伴侶たり。
とこしえに将来のわが青年を鼓舞、作興するにたるべき快男児たることである

近来、維新功臣の人物はだんだん伝記が明らかにされてきた。
しかしながら、高杉に至っては、まだ一巻の正確なる伝記を見たことがない。
彼の名は一世に響いているにかかわらず、
身後五十年に近うして、まだ伝記のないことを私は遺憾とする

横山の父・幾太は、
「高杉よりも二歳年少にして、手習い稽古にも同学し、
松下村塾にも同窓であった」という。




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