父子の往復書簡
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父子の往復書簡

父子の往復書簡

『晋作から父小忠太あて 』 (安政3年8月15日、晋作18才)
一筆、呈上奉り候。秋冷相催し候えども、上々様ますます御機嫌よくござ遊ばされ、
恐悦至極に存じ奉り候。
且つまた、尊大人様、御堅勝御勤仕なさるべく恐喜斜めならず存じ奉り候。
ここもと祖父様、祖母様、母様、御揃い御異無く御入りなられ候、
二に子供中相揃い消日仕り候間、惶ながらこの段御安意遣わさるべく候。
御地氣候如何候や、ここもとは両三日甘雨來冷氣いよいよ相増し候、
この節は萩城中至って御靜謐の御事に候。何も珍事ござなく候。
申し上ぐるも疎にござ候えども時候、御用心専一に存じ奉り候、余は後便申し縮め候。
恐惶謹言
                              晋作
                             春風(花伸)
八月十五日
二白 幾重幾重、冷氣御用心專一に存じ奉り候。再拝
小忠太様


『小忠大から晋作あて』 (安政3年)
一、追々讀書もこれあり講釈等も御聞き候て御承知これあるべき事、
惣じて人間の修行に氣質変化と申す事これあり申し候。
この一義誠に大切の事にて又ありがたき妙法にござ候、
古聖經賢傳の千言萬語も皆ここに落ちつくと申し候ても然るべし、
それは廣き論にて筆に盡し難く、
先ず引っつめ候て申し候えば一軒の家にて自身の氣質変化仕り、
吾が儘これなく候えば自然と父母へのあしらえも宜しく、
兄弟睦じく相なり候事勿論にて又御奉公致されし君へ忠義或は御役堅固に勤め
功業相立ち候も皆身の氣質変化智惠行き渡り候えば
自然と功業も相立ち萬事の取り計い行き届き候者と相い見え申し候。
それをいかんと申し候に、いずれ人間生れしままではその氣質の偏頗と申す事これあり
世の中の道理の勘弁行き届き兼ね候者に付、とかく取り計い方取りしめず、
又は人の心に叶い兼ね候事、勿論の事にござ候。
これによって學問を致し、氣質変化の工夫をこらし、
吾々智識を廣め世の中の事いかなるむつかしき事にてもその取り捌き滯り
これなきように致し候事これ全く學間の妙法
(後略)

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