回復私議(狂夫言)
回復私議(狂夫言)

 序 
亡命脱走、国禁を犯すの罪、余もとよりこれを知る、いわんや朋友ことごとく忠死、
余ひとり生を偸む。
あに、愧ざらんや。しかれども国の大艱難また心を尽さざるを得ざるなり。
今、回復すでに成る。
嗚呼、余すべからく沈滅の人たるべし。たとえ余困窮の極、黄泉底国に陥るとも、
天下の賊名を蒙るとも、毛利氏の忠臣とならんと欲す、
一篇の同復私議は同志に對し交議を忘れざるの微心なり。

 同志と云うものは交義の厚きものにて、余の如き頑愚無頼生をも国に止め、
国の用をなさしめんと欲す。
 しかるに余は同志中にてもっとも国罪を得しものなれば、国に止まるとも、
 かえって同志の煩を招く懼あれば、あえて同志に告げずして去る。

京都敗走
君辱らるれば臣死す。君冤を訴えて、闕下に伏す。勝敗は時の運。
臣子、臣子の分をつくす、天下の間、あえて恥ずるところなきなり。

馬関和議
天下の諸侯に先んじて外夷を攘う。諸侯畏縮して望観す。和議、休戦。これまた一時の権謀。
未だその素志を遂ぐる能わずといえども、
口に攘夷を唱え身にこれを行なう能わざるものに勝ること数百等、
いわんや、外夷の使役するものたるをや。(中略)
諸隊は防長正気の鍾るところ、義兵を起し、賊徒を滅すは自然の勢なり。
しかりといえども、今日の回復はすなわち、諸隊忠士のなすところにあらず。
しこうして、先霊鬼神の諸隊の忠士をして回復なさしむる所以なり。
あに懼れざるべけんや。
防長両国の人民、義に動き、諸隊に応ず、これ人民ども姦吏私を○(逞の王→壬)うし、
反臣売国の逆謀を怒り、憤激するといえども、君命を以って、
毎戸毎家に論す口口命を奉ぜざるの愚鈍自然に感発する所以は
光霊鬼神の威光のなすところにあらずして、誰かよくこれをなさん。
(中略)
和戦決定、御歎願御成就の上は、大割拠の御廟算にて、
富国強兵、日新の御政事これあるべし。
矢庭に馬関開港の議起こるべし、その時、幕府及び薩賊の奸計に墜り、
外夷の妖術に惑さるるときは、国体を恥かしむるのはなはだしきなり。
時連なれば止むをえざる御権謀にて国体を恥かしめざるよう
我より先んじて開港すべし。
民政正しければ、すなわち民富む。
民富めば、すなわち国富み、すなわち良器械も手に応じて求められるべし、
諸隊の壮士にミネ-ルの元込み、雷フル、カノンの野戦砲を持たしむるときは、天下に敵なし。
禍を転じて幸となすは古今の通理、卸両殿様御再興、防長の人民安堵、士兵日に強く、
土民日に富み、先霊鬼神の御威光を地下に御慰め遊ばされ候義は、
嗚呼これ、この秋か。
今日の勢はすこぶる六国の姿なれば、国盛んなればなるほど、浮浪遊説の徒多く、
入り来るものなり、廟堂の君子は申すも及ばず、有志の壮士といえども、
彼が口術に浮かされ、愉快に乗じ、国外へ手を出すようなる事は、
無益の至りなり。
国富み、兵強ければ、御両殿様尊攘の御素志は御独立にて御遂げ遊ばさるべきなり。
憂うるなかれ、憂うるなかれ。

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