三宅雪嶺『想痕』
大正四年

薩の西郷に当たるは長の高杉にして、
維新前に死し、維新の元勲として名を列せざるも、
その人格および行動の豪快なる、永く歴史を飾るに足る。
長に木戸なくして可、広沢・大村なくして可、
伊藤・山県・井上なくして可なれど、
高杉なきの長は気の抜けし炭酸水のごとし。
維新史料を編纂するも興味索然たらん。
長が幕府に破られ、続いて高杉が回復を計り、
頻りに兵を募りし時、山県は時非なりとして応ぜず。
しかして伊藤は蹶起してこれに応じ、
勢いの揚がりてより山県も応じ来たり。
ついによく募兵を駆逐し、幕兵の与みし易きを天下に知らせ、
関西数箇国の相呼応して幕府を覆すに至れる。
誰が高杉を首功に推さざるべき



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