和歌集
和歌集

和歌集

里人のしらぬもむべや谷間なる
 ふかき渕瀬に潜む心を

九月九日
 白菊の咲き栄ぬる世なりせば
  手に取る杯も快き哉

山郷
 人は人吾は吾なり
  山の奥に棲てこそしれ世の浮沈

早梅
 咲がけて咲みつるこそ幸哉
  春は梅にせかされこそする

寒松
 雪折れし松に罪こそなかりけり
  栽にし人のむくいなるらん

吹く風に積りし雪を払せて
 緑もかわらぬ庭の松枝

山を出て市に遊ぶ
 志々猿を友とし送る山人も
  三味の音を聞く耳はあり

市に出し後、病の起りぬれば
 志々猿のねたみはをろか山神の
  許しも待ず市に出しは

余り病の烈ければ
 死んだなら釈迦と孔子に追ついて
  道の奥義を尋んとこそ思へ

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